赤毛のアン

100分 de 名著は,たいてい見ています.今月は「赤毛のアン」で,珍しく読んだことのある本です.数年前にも再読しました.

残念なのは,解説が茂木健一郎氏であることと,朗読の声優の感情が入りすぎている点です.彼女はミュージカルでアンを演じたこともあるそうですが,ミュージカルの出演者とか,アニメや海外映画の吹き替えの声優は,いくら何でもと思うほど感情入れすぎと思います.そういうものなんでしょうけど,どうも好きになれません.

番組でときどき紹介される映画(実写)のシーンでのアンは,ずっと抑えた,というか自然な演技をしていて朗読と対極をなしています.

これは外国映画・ドラマでしばしば経験しますが,日本語の吹き替えでは男声も女声も,声優のビンビン張った声になっていますが,オリジナルの音声を聞くと,たいてい低くてぼそぼそ言ってます^^;

それはおいておくにして,今回感じたのは,「赤毛のアン」という題が実に的確であると言うことです.アンの人格形成において赤毛であるということが重大な影響を与えている,というのは茂木氏に解説されなくても解っていますが,再認識しました.

原題は “Anne of Green Gables”ですが,これも「赤毛のアン」の英訳にしたほうが良かったんじゃないかと思いました.

どうでもいい話ですが,これまで司会だった島津有理子アナウンサーはNHKを退職したそうで,この「アン」から,安部みちこアナウンサーに代わっています.

命を狙われるかも知れないので名前は書きません^^;

夏目漱石: 夢十夜他二編

文書名 -夏目漱石_夢十夜他

夏目漱石の短編集です.夢十夜は高校生の時に読んだ記憶がしっかりあります.今回読んだのはその時と同じ文庫本なので,他2編である「文鳥」と「永日小品」も読んだはずです.

夢十夜はシュールな作品です.といっても,夢はだいたいシュールですよね.非日常的,非論理的,不条理であるけど,何か受け入れてしまう.たぶん,実際に見たおもしろい夢をうまく書きまとめたものと,夢風の創作とを10話そろえたのだと思います.話もだいたい覚えていました.

実際の夢とこの短編との違いは,場面や登場人物の連続性の有無だと思います.夢では先ほどまでいた人と違う人と一緒にいたり,前後で場所が全然変わったりしますよね.

文鳥も少し読んだ記憶があるような気がします.文鳥を飼ったときの日記のようなものです.

永日小品は,退屈です.ロンドン留学時代と,今日の話がランダムに出てきます.日記のようなエッセイでしょうか.ちゃんと全部読めませんでした.

まあ,私のような普通(以下? ^^; )の読者には,夢十夜以外は全くおもしろくありませんでした.

70年

今朝は,早く目が覚めて,土曜だから昼寝もできるので,二度寝しないでテレビを見てました.

NHKの10分間の番組「あの人に会いたい」で,作家の井上光晴(1926〜1992)が紹介されていました.

今年は,敗戦70周年と言うことで,特に「語り継ぐ」と言うことで,戦争体験を風化させない努力,取り組みについて,テレビで見ることがこれまでになく多かった様に思います.

区切りのいい年ですし,実体験した人たちは高齢化が進む一方,これまで,戦争について口を閉ざしていた体験者たちの多くが今になって語ろうとし始めたという動きも多かった様に感じています.

しかし,実際に戦中・戦後を体験した,作家である井上の言葉は強力です.こういったら,戦争を体験し,体験談を語り継ごうとしている,一般の人たち(当時の兵士にしても民間人にしても)には失礼ですが,やはり,「言葉」で生きてきた作家の一言一言のもつエネルギーは違います.

たった10分の番組なのに,強力な印象が残りました.

長崎の被爆の前日を描く,『明日 一九四五年八月八日・長崎』を読んでみようと思いました.

追記

『明日 一九四五年八月八日・長崎』は,Kindle, iTMSともに400円で売ってました.中古の文庫を買って自炊しようかと思いましたが,送料込みで400円を超えるので,今回はiTMSから買いました.

原田実「江戸しぐさの正体」

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どうも,ここのところ,本が読み続けられない^^; 根気もないんでしょうけど,なかなかおもしろい本に出会わないです.そこで,気楽に読めそうな本を読もうと思い,たまたまSNSで見聞きした,えせマナーである「江戸しぐさ」を糾弾する内容の本書を買ってみました.

「江戸しぐさ」については,多くの皆さんと同じと思いますが,公共広告機構のCMで見たのが最初だと思います.あまり深くは考えませんでしたが,嫌なCMだと感じました.古今東西,マナーを押しつけるCMほど嫌味な物はありません.これがマナーなんですよって言うってことは,あなたはマナー違反をしてますよと指摘するのと同じです.

そして,そういうマナーの指摘は,本当に必要な人には届かない^^;

それと,こんなマナーがほんとに江戸時代にあったんだろうかとも漠然と感じていました.

最近になって,SNSなどで,そもそも江戸しぐさなどというものは,江戸時代には存在しないものだという情報を見聞きして,逆に関心が強まりました.

そんな状況だったので,さくさく読み進みました.研究者の本だけに,わかりやすい組み立てになっています.

前半では,江戸しぐさについて,史実との不整合性を挙げ,いずれも本当の江戸にはあり得なかったことを指摘します.

中には素人の知識でもおかしいと感じるものもあります.たとえはトロです.落語なんかに出てきますが,冷凍技術のなかった昔は猫またぎと言って,食用にはならなかった.それを江戸時代の食事マナーの引き合いに出すのはヘンな話です.

続いて,江戸しぐさを発案し,普及させてきたキーパーソンである人たちの経歴や時代背景から,オカルトともいえるこのえせマナーがどのように発案され普及させられてきたのかを考察します.

江戸しぐさの「発案者」である,芝三光氏は,子供の頃は横浜で軍国教育を受け,成人したら今度は民主主義に切り替えさせられ,GHQの会員制クラブでアルバイトをして西洋的マナーに心酔したようです.そうした経歴と江戸しぐさとの関係が本書ではよく考察されています.その芝氏の脳内に描かれた理想郷が,江戸しぐさにあふれている現実にあった江戸ではなく,パラレルワールドの江戸だったわけです.

今日では,この史実に基づかない江戸しぐさが,自民党と文科省の働きで,教育現場に持ち込まれてしまいました.

こういうえせ史実を本当のこととして教育現場に持ち込むことの危険性を主張し,結ばれています.

実は,私自身は,著者のいう危険性について,そこまで危険なこと,とは現実問題としてはとらえていなかったのです.しかし,今日の北朝鮮で行われている指導者たちの神格化についても,わが国で戦前行われた軍事教育についても,ねじ曲げた史実に基づいていますから,こういう段階から注意していく必要があります.

小さい嘘に嘘を積み重ねてやがて大嘘になる.

そして,自民党と文科省といった,権力側が関わっているところが,なんともうさんくさい.

二間瀬敏史「時間旅行は可能か」

タイムマシンの話ということなのですが,エンジニアリング・メカニカルな話はゼロです.ですから,タイムマシンとは言わず「時間旅行…」というタイトルにしているのだと思います.

ひとことで言えば,今日的な物理学に照らして、時間旅行が可能だとしたら、ワームホールを利用することになるが、ワームホールの性質や,エントロピー増大の観点からダメでしょうというものです。

高校生以上で,物理に興味のある人なら読める本だと思います.また,特別つまらないというものではありませんが,前述の様に,具体的な話がありません.

まあ,タイムマシンとはそれだけのものなのかも知れませんが,「錬金術」のように,タイムマシンを研究・開発した山師たちのエセ科学史的ものがあれば,おもしろかったかもしれません.二間瀬敏史_時間旅行は可能か