原田実「江戸しぐさの正体」

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どうも,ここのところ,本が読み続けられない^^; 根気もないんでしょうけど,なかなかおもしろい本に出会わないです.そこで,気楽に読めそうな本を読もうと思い,たまたまSNSで見聞きした,えせマナーである「江戸しぐさ」を糾弾する内容の本書を買ってみました.

「江戸しぐさ」については,多くの皆さんと同じと思いますが,公共広告機構のCMで見たのが最初だと思います.あまり深くは考えませんでしたが,嫌なCMだと感じました.古今東西,マナーを押しつけるCMほど嫌味な物はありません.これがマナーなんですよって言うってことは,あなたはマナー違反をしてますよと指摘するのと同じです.

そして,そういうマナーの指摘は,本当に必要な人には届かない^^;

それと,こんなマナーがほんとに江戸時代にあったんだろうかとも漠然と感じていました.

最近になって,SNSなどで,そもそも江戸しぐさなどというものは,江戸時代には存在しないものだという情報を見聞きして,逆に関心が強まりました.

そんな状況だったので,さくさく読み進みました.研究者の本だけに,わかりやすい組み立てになっています.

前半では,江戸しぐさについて,史実との不整合性を挙げ,いずれも本当の江戸にはあり得なかったことを指摘します.

中には素人の知識でもおかしいと感じるものもあります.たとえはトロです.落語なんかに出てきますが,冷凍技術のなかった昔は猫またぎと言って,食用にはならなかった.それを江戸時代の食事マナーの引き合いに出すのはヘンな話です.

続いて,江戸しぐさを発案し,普及させてきたキーパーソンである人たちの経歴や時代背景から,オカルトともいえるこのえせマナーがどのように発案され普及させられてきたのかを考察します.

江戸しぐさの「発案者」である,芝三光氏は,子供の頃は横浜で軍国教育を受け,成人したら今度は民主主義に切り替えさせられ,GHQの会員制クラブでアルバイトをして西洋的マナーに心酔したようです.そうした経歴と江戸しぐさとの関係が本書ではよく考察されています.その芝氏の脳内に描かれた理想郷が,江戸しぐさにあふれている現実にあった江戸ではなく,パラレルワールドの江戸だったわけです.

今日では,この史実に基づかない江戸しぐさが,自民党と文科省の働きで,教育現場に持ち込まれてしまいました.

こういうえせ史実を本当のこととして教育現場に持ち込むことの危険性を主張し,結ばれています.

実は,私自身は,著者のいう危険性について,そこまで危険なこと,とは現実問題としてはとらえていなかったのです.しかし,今日の北朝鮮で行われている指導者たちの神格化についても,わが国で戦前行われた軍事教育についても,ねじ曲げた史実に基づいていますから,こういう段階から注意していく必要があります.

小さい嘘に嘘を積み重ねてやがて大嘘になる.

そして,自民党と文科省といった,権力側が関わっているところが,なんともうさんくさい.